第三部 列強圧迫下・苦悩のドラマ 十一、相互感応史の提唱

日韓・歴史共同研究をめぐって

外務省が主催している日韓歴史共同研究が今年の3月23日、第2期分の報告書を日韓文化交流基金HP上で公開している。内容を総て読んでいないので研究についてのコメントはしないが、日韓共鳴二千年史―これを読めば韓国も日本も好きになるで、著者は朴正煕大統領の側近金鍾泌元首相の「歴史を共有することは馬鹿げている」いう言葉を引用している。

共有できるのはせいぜい年表に基づく事実関係の記録だけだとも著者は述べている。ではどうすれば共感的相互理解に近づけるのか、著者は伊藤博文と安重根の事件を例題に考えている。韓国の国定教科書『国史』中学校用では、安重根は、韓国侵略の元凶である伊藤博文が、大陸侵略の野心をいだき、満州視察を口実にハルピンに到着したとき、彼を殺害して、全世界に我が民族の独立精神と大韓男児の気概を見せ、日本の大陸侵略を世界に警告した。

 

明治維新で倒幕を果たし、初代首相であり、帝国憲法を起草してその後、首相を4度勤めた明治の元勲を殺害した犯人を大韓男児の気概を見せた英傑とは当然書けないである。伊藤は、日本の国造りが完成しつつあったので、韓国の国造りに意欲を燃やし、三年半に及ぶ総監時代に、治安の維持、衛生設備の設置、経済の安定、道路網の整備、教育施設の充実に成果を挙げる。付言すればこれらの多くは日本の税でおこなわれている。

伊藤は終始韓国の併合に反対で 、歴史も古く、国民の反抗心も旺盛、その上貧しい韓国を併合したらろくな事にならない、そう思って韓国を近代的な独立国家に育成しようと尽力したのである。

 

しかし度重なる韓国宮廷の不信行為と国民の叛乱に絶望する。また日本国内にはそんな伊藤の政策に生ぬるいという声が高まり、併合やむなしの世論が醸成される。韓国国内でも一進会など民間団体による合邦運動が起こって、桂首相、小村外相らの要請を受けて明治42年、併合に同意することになる。6月には曾禰荒助に総監を禅譲して帰国してしまう。初物食いと揶揄される伊藤は、日本の国をデザインし、次は韓国をデザインした後、日露戦争後の満州の安定に意欲を燃やしたのであると著者は指摘している。

 

大陸侵略の野心をいだき、満州視察を口実にハルピンに出かけたと、解説している韓国教科書だが、伊藤がハルピンに出かけたのは、大陸侵攻の野心をいだいてではもちろんなく、ハルピンでロシアのココーツォフ蔵相と日露の対立の原因、満州の安定を協議するためであった。

事実、伊藤は殺害される30分前にハルピンに到着したココーツォフ蔵相と会談する。会談で伊藤は「ロシアは巨費を投じてウラジオストック要塞を強化するよりも緊密な日露協商を結んだほうが得策である」説くと、コ蔵相も「困難な満州の植民地経営で日本と争うより、シベリア開発の方が先決だ」と答えている。

 

伊藤が大陸侵攻の野心をいだいてハルピンに出かけたという記述は明らかに事実に反するので、せめて事実関係だけ押さえる記述で教科書は書かなければ笑われると著者は諭している。伊藤公の暗殺を伝える各国の韓字新聞を掲載した資料には、サンフランシスコで起こった、張仁煥のスティーブン殺害事件を犯人の張を賞賛して激烈な論調で伝えた新聞も、伊藤公の殺害事件では事実関係を伝えるにのみに終始している。

 

著者は最後にこう述べる。

 

現在日本には、「安重根無罪論」を書いて漢陽大学から名誉博士号を貰った弁護士がおります。また、「伊藤の犯罪は日本の帝国の犯罪」として、伊藤博文に代表される明治の進路を断罪する学者もいます。読んでいてあまりに一面的なのに驚きます。こんな日本の学者の発言に対して、もし韓国の学者が「あなたは日本人ではないか。日本人なら当時日本が置かれた立場と、伊藤博文の業績にも思いを馳せたらどうか。安重根べったりでは、単純な悪玉善玉論になってしまう」とたしなめたらどうなるでしょうか。―中略―

 

歴史の「共同研究」というなら、相互の立場をこのように理解したいものです。歴史に一方的な悪も善も存在しないのである。あるのは生き残りをかけた国家人民の苦闘だけだ。国家はそれぞれ生き残りをかけて、しのぎを削っているのである。

 

近代以前は国家が滅亡するとき、女性は陵辱され男性は皆殺しになった。国家存亡の危機に善悪を論じている暇はないのである。19世紀後半の韓国と日本はアジアを侵食する欧米列強の圧力を受けて双方の政府、国民はそれぞれ対応した。その時間差が両国の関係に決定的に作用し1910年(明治43年)8月29日を迎えることになる。その後、両国の運命は大きくかわり、両国とも安全保障を米国に委ねる半独立国家となっている。いまこそ日韓両国は歴史的わだかまりを乗り越えて、半島を統一して真の独立国として極東アジアの安定に寄与しなければならない。