第四部 日韓併合それぞれの苦難 三、吉野作造が見た初期の朝鮮統治

シカゴ大学教授スタール博士の警告

大正デモクラシーの騎手吉野作造教授だが、大正5年に満州と朝鮮を視察して次のように述べている。

異民族の統治は「威圧」だけで成功すものではないことは固(もと)より言うを俟(ま)たない。幸にして朝鮮政府は、一方において国家の威厳を示して居ながら、他方に於いて土民に近世文明の恩沢に浴する機会を与え、殊に昔の独立時代に見なかったいろいろの生活上の便宜を供している。殖産工業もだんだん盛んになって居る。交通機関も開けた。殊に道路はどんな田舎に行っても今や立派に造られて居る。病院も設けられた。―中略― 

 

社会公共の秩序は立派に維持せられている。権利の保障には土人と内地人の別を立てぬ。比較的公平なる裁判は確かい土民を満足せしめて居るようだ。このほかにもある朝鮮人の談として、父祖はその財産のため府の長官に度々捕縛されて、そのたび多額の身代金を徴収されたという 。公の長官が身代金を取っていた言う事実は驚きだが、そのよなことは日本の統治下でなくなったという。

 

吉野は日本の朝鮮統治に一定の評価をしているが、同化政策には懐疑的な発言をしている。

 

異民族の同化は可能であるとしても、それは困難な事業である。―中略―

 

異民族に接する経験も浅く、ややもすれば他民族を劣等視する狭量な日本民族には極めて困難である。

 

吉野は米国シカゴ大学スタール教授の朝日新聞の記事を紹介している。要約すると、

 

日本は朝鮮を善くしたが朝鮮人は日本人を嫌っている。また日本人も朝鮮人を下に見て軽蔑している。日本人が朝鮮でもっと繁栄しようと思うなら、もっと朝鮮人と親友になることだ。鉄道も、港湾も、学校も、裁判所も、皆日本の恩恵であるが、朝鮮人は有難いと思っていない。日本人が朝鮮人を同胞と思って親切なる待遇を与え、朝鮮人もその義に感じて日本人と運命を共にするようにならなくては問題は解決しない。まず日本の教育者は朝鮮人を同胞と思って日本人小学生を教育する義務がある。

 

吉野やスタール博士は日本人が朝鮮人を劣等視していることを指摘して、イギリス人医師のグレーグが神様のように慕われている話を紹介しているが、著者は日本人と朝鮮人の間の感動秘話を見つけられな方だけだと反論している。

 

黄海道や全羅南道の知事を務めた八木信雄氏は「韓国が独立してくれて、ホッとしたのは日本人だ」と本音を吐露している。八木氏は朝鮮総督時代、朝鮮のために尽力したにもかかわらず報いられることはなかった。 戦後は日韓文化協会理事長として日韓の架け橋たらんとした努力した人である。韓国人の中には、

 

我々が日本に統治された怨念を晴らす方法が一つだけある。それは南北統一をした韓国が、一度日本を占領することだ。そして創氏改名させ、ハングルを公用語にして檀君を拝ませる。そこまで行かねば、心が収まらない。

 

著者はこう結ぶ、

 

そもそも異民族を支配することは不可能と言ってよく、そのためのマニュアルはありません。憎悪は憎悪を生み、復讐心はまた復讐心を育てます。賢明な民族なら、このような悪循環を繰り返すことをやめ、異民族を抑圧した体験、抑圧された体験を相互に教訓化したいものです。

 

2010年8月29日に謝罪談話の発表を計画し、日韓基本条約とそれに伴う協定で「完全かつ最終的に」解決されている「戦後個人補償」について、政府として再検討する考えを示そうとする。日本政府も、「天皇に明成皇后殺害事件などに関する公式謝罪」を求める訴訟を起こすことを計画している韓国の民間団体も不幸な経験を教訓化していないといえる。